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日光の眩しい十干の郷。 太陽はすっかり元に戻り、郷の民は熱心に大神への信仰を捧げている。 封鎖が解かれた高天原では日々参拝客が社へと訪れ、今日も郷は平和そのものだった。 ――が、社の前でただ1人、表情に影を落とす狛犬がいた。 犬飼 「…………」 大神 「どうしたよ犬飼。頭でも頭痛なのか?」 犬飼 「大神さん…雨を止ませたらダメだ」 猿野 「コラコラコラ〜〜、何言いやがんだこのクソ犬は!」 気紛れでやって来た猿野が、もはや恒例のように犬飼に突っ掛かる。猿野としては、せっかく苦労して雨を止ませたのが無駄になるような気がしたのだ。 実のところは、あれから暑い日が続いているのでそろそろ雨で気温を下げて欲しかったのだが。 猿野 「あんだけ降ったんだから、もう当分雨はいら〜ん!!」 犬飼 「うっせ。テメーの意見は求めてねぇ」 大神 「……。あいつの事を心配してんのか?犬飼」 犬飼 「…………」 猿野 「あいつ?」 辰羅川「かつてこの高天原で、 私たちと共に大神さんに育てられた妖獣がいるのですよ」 原野に長い影が被さった次の瞬間、辰羅川がバサッと翼をはためかせて地へ降り立った。 辰羅川「ちょうど良かった。犬飼くん、その件でお話ししたい事が……」 犬飼 「奴の事は絶対に許さねぇ。それだけだ、とりあえず」 猿野 「何の話だ?まだ何か問題があんのかよ」 犬飼がポツポツと語った内容を纏めれば、大神に育てられたもう1匹の妖獣――野狐(やこ)――は神を殺める力を持っており、大神の憑り代を破壊した全ての元凶は他でもないその狐である。 憑り代の破壊は狐が故意に行った事だと犬飼は言った。 大神が岩戸に封印されてから姿を消していたが、狐の目的は太陽信仰を廃滅させる事であり、そのためには大神の力を継いだ犬飼の存在が邪魔だった。 よって仲間の妖怪を高天原へ送り込み、犬飼を始末しようとした事があるのだという。狐の力や目論見の事も妖怪達に聞かされた。 その時犬飼が負った傷は、未だに癒えていない。 猿野 「神殺しの力ねぇ〜。 そんな力、あっちゃたまんねぇと思うんだがな〜」 犬飼 「何にしろ、テメーには関係ねぇよ」 辰羅川「しかし犬飼くん、彼は大神さんの事を本当に慕って――」 犬飼 「何で奴を庇おうとする、辰。 お前も奴の仲間に酷い目に遭わされただろ」 辰羅川「……ですが……」 猿野 「何かゴチャゴチャした話になってんな〜。 ゴッドパワーで解決出来ねぇのか、大神さん」 大神 「そうだなぁ」 犬飼 「とりあえず、大神さんには2度と近付けさせねぇよ。 きっと奴はこれからも民の太陽信仰を壊し続ける。 オレが奴を殺すまで、また雨で太陽を隠して――」 大神 「こら、ダチを殺すだなんて言うんじゃねぇぞ」 犬飼 「…あんな裏切り者、ダチなんかじゃない」 辰羅川「…………」 裏切り者の狐は、郷の最西端にある“隠者の森”に潜んでいるらしい。 犬飼は、包帯でぐるぐる巻きの左手をギュッと握り締めた。 犬飼 「力が安定するまでは、大神さんの傍を離れる事は出来ない。 だが、もうじきしたら必ず森に……!」 口を噤んで項垂れる辰羅川の横で、大神はじっと犬飼を見詰めていた。 その表情から思考を読み取る事は出来ない。大神の双眸には、果て無き蒼穹の色が揺らめいているだけだった。 猿野 (う〜〜〜ん。もしこれで大神さんが動くと、 また面倒な事になりそうな気がするぜ…。 ここはいっちょ、オレ様がどうにかしてやっか!) 近々その隠者の森とやらに行って、狐に話を聞いてみよう。 1度思い込んだらきかなさそうな犬飼の事だ。物騒な力に関しても、もしかしたら何か勘違いをしているのかもしれない。 神を殺す力、信仰を侵す力――そんなやばい力があるわけないし。 神に為り得る力を持つ狛犬の前で、猿野は気楽に決意した。 |