| ○6面中ボス もて悩む郷の長 白雪 静山(しらゆき せいざん)〜Shirayuki Seizan |
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自分の計画とは違ったが、想定していた最悪の事態を逃れる事が出来た。その上、大神は今も現世でピンピンしている。 何はともあれ、本当に良かった…。 胸を撫で下ろしながら、功労者の働きを改めて思い返す。 聞けば猿野は、最近スペルカードを使い始めたばかりというド素人。それが自分のみならず、あの大神にすら勝利してしまったとは…。 鬼の力を使ったと言えど白雪は長年の封印疲れに加え岩屋の熱で弱っていたし、急造仕立ての大神は本来の力のほんの数パーセントも発揮する事が出来なかっただろう。 それでも、あくまで常世の鬼と神様なのである。 弱体化していようが弾幕遊びの形だろうが、現世の民に敗れる可能性など無いはずなのだ。 まして、大神は本気で猿野を殺そうとしていた。猿野に有利で大神に不利なあらゆる要素を鑑みても、本当なら猿野は大神に殺されていなければおかしい。今頃には少なくとも、世界地図から十干の郷が消えていなければおかしいのだ。 女性専用の温泉に突撃した猿野が禍々しい鈍器を持った下着姿の女の子達に半殺しにされているなどという、そんな平和な風景は決してあってはならなかったのだ。 異変時の状況はあまりに特殊であったが、それでも太陽の神が敗北したという事実は常世が注視するには充分すぎる問題だろう。 神と同等の力を持ち得るというだけの犬飼の存在すら、『大神の監視下に置く』という条件付きで黙認されている状態だ(大神がちゃんと監視しているのかは定かでないが)。 ならば純粋な自身の力のみで神様と戦い勝利してしまった猿野は、果たしてどのような扱いを受けるのか。 本人は想像だにしていないだろうが、現在猿野の命は首の皮一枚で繋がっている状態である。 もしも今回のような事が再び起こったら、きっとすぐに死神がやって来て彼を現世から引き剥がす。 現世には、常世より優れている力など存在してはならないのだから。 ――まぁ、主人公補正ってやつだったんだよ。 何やらメタな独り言を呟きながら、白雪は自室で愛刀を研いでいる。 猿野に再戦を申し込んでボコボコにし、常世の偉い人に「所詮この程度の猿ですよ」と報告するためである。 それで警戒が解かれる訳ではないが、即刻処分という選択肢への妨げ程度にはなるだろう。 つまり白雪は、郷の長として大神の友人として、郷の民であり大神の暴走を止めた恩人である猿野が危険因子として排除されないよう、身も心も鬼にして刀を振るうつもりなのである。 断じて岩屋であっさり負けたのが悔しかったとか、仕返しして鬱憤を晴らしたかったとかいう訳ではない。 良い口実が出来てラッキー、なんて全然思っていない。 まったく、上と下のパイプ役というのは実に嫌な仕事である。 刀身が砥石を滑る小気味良い音に紛れて、やけに弾んだ鼻歌が白雪の部屋からこぼれた。 |
| ○6面ボス 立ち消えた天つ神 大神 照(おおかみ てる)〜Okami Teru |
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種族:神様 能力:全てを照らす程度の能力 所持スペルカード 我執「神風800km/sec」 貪欲「荒くれ男大撃退」 愚癡「卑弥呼はどうして死んだのか?」 瞋恚「白色光フレア」 「三種の神器」 「一柱・飲酒の天忍穂耳命」 「二柱・妄語の天穂日命」 「三柱・邪淫の天津彦根命」 「四柱・偸盗の活津彦根命」 「五柱・殺生の熊野忍隈命」 常世から現世に下った神様の1人である。 太陽を司るという唯一無二の力を持ち、八百万の神の中でもトップクラスの地位にいる。 永いこと常世で暮らしていたが、十干の郷を気に入って現世に下りて以来高天原を拠点として郷に住み着いている。 社のお供え物を食い漁っていた幼い妖獣2匹――犬飼と御柳をとっ捕まえ、日和見塔の監理者に預けられた竜の子供・辰羅川と共に手元に置いて育てた。 神様にしては極めて庶民的な感性を持つ。豪放磊落な立ち振る舞いで気軽に妖や人間に接し、郷の民とは非常に友好的な関係にある。 現世に下りた神は、元々現世にあった物質(主に岩や木など)を1つ憑り代として置く必要がある。 憑り代は必ず民の目に晒されやすい場所に祀られ「決して触れてはならない」とだけ下知されるが、いつでも誰でも憑り代に触れる事が出来る。 憑り代とは、神が地上にいる間に力を置いておく器である。 本来現世のものではない神の姿やその在り方を『現世で表す事が出来る形』に定義し直す役割もあり、本質的には神の本体になると言ってもいい。 但し、それは力を使うための意思を持たない。憑り代に宿したものを実際に活現するのは、現世用に作られた思念体である。 思念体は思考能力を司るほか独特の質量を持ち、現世の民の『肉体』と似た働きをする(憑り代によって常に定まった姿に形作られるため一切の変化をしないなど、決定的に異なる点はいくらかあるが)。また、憑り代の影響なくそれ単体でも僅かな神力を纏う。大神の場合は太陽熱だが、放っておくと周辺を灰にしてしまうので概ね未使用。 現世では、『憑り代を破壊する事で神は殺害される』という民間伝承がある。 しかし、それは間違いだ。 憑り代を砕けば神は地上から消えるが、それはあくまで現世に置ける姿を失うというだけ。神は憑り代の破壊と同時に常世へ帰り、引き続き現世を見守り続けるのである。 それまでと違うのは2度と現世に下る事が出来なくなるという点くらいなのだが、下民はそんな事など知る由もない。 今まで目に見えていた姿を失ったという事は、其即ち死と考えるからである。 伝承を正確にすれば、『憑り代を破壊する事で、現世は常世からの信頼を失う』となる。 わざわざ物質的な滅びを持つ現世の岩や木を分身(わけみ)とする理由はそこにある。象徴を維持する事も出来ない地に神を留める資格はない、と判断されるのだ。 憑り代を置く事によって、民は試されているのである(神の力を内包したそれは、ちょっとやそっとで壊せるような代物でもないが)。 尤も、元を糺せば常世と現世の立場に上も下もない。 常世の力がなければ現世は生命を保つ事が出来ないが、現世での信仰がなければ常世は存在を許されない―という依存関係なのだから。 憑り代による『現世を試す』即ち『現世を見下ろす』行為は、自分達の力の強大さに逆上せあがった一部の神々が遠い昔に定めた錆付いた原則である。 現在の常世では現世を軽侮する傾向は殆ど消えているが、憑り代制度は「そういうもの」として危うい形だけが残っている。 御柳が憑り代を砕いた瞬間、白雪は霧散しかけた大神の思念体を咄嗟に氷に閉じ込め無理矢理仮死状態にした。 しかし、大神の意思によって存する太陽は消滅する。現世は刹那、闇に飲まれた。 社の方から竜の泣く声がする。憑り代が壊れてしまったと。 白雪は夜陰の中で短く思考した。 氷を解けば大神は常世へ帰り、太陽は今まで通りに地上を照らし続けるだろう。 だが、残された子供たちは? 大神の憑り代を砕いた子供を――『神を殺した』子供を、郷の民は許すだろうか? ……いや。 そんな事を考えたって、もうどうする事も出来ない。 突然訪れた夜が地上を混沌に陥れる前に、太陽を天にかえそう。 白雪が氷を解こうとした、その瞬間である。 太陽の光が再び地上を照らした。 どうやらその異常事態は、狛犬の能力によるものだと分かった。 羊谷の手を借りて高天原に地下へと続く岩屋を作り、大神を閉じ込めた氷塊と壊れた憑り代はその中へと封印された。万一にも民の目に触れさせないためである。 信仰を集める強き神は、決して衰えてはならない。常に圧倒的で揺るぎない力を誇示していなければならない。捧げられた信仰に見合う力を。 氷漬けにされた大神の弱々しい姿など見られたら、郷の太陽信仰は一気に崩れてしまうだろう。 その日のうちに、郷中に通達が出された。 短い間ですが、太陽が消えてしまいました。 皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。 大神照はそんな自分に非常にショックを受けており、 現在、高天原の岩屋に引き篭もっております。 大神照を刺激しないため高天原は暫く封鎖とさせて頂き、 岩屋の番は狛犬が行います。 何卒ご理解ご協力を賜りますよう、どうぞよしなに。 by 白雪静山 ―― 猿野が戦った大神の姿は、犬飼が<憎き者への復讐を遂げるために>創り上げたものである。 現世における神のかくあるべきを定義付ける憑り代の再構築に、犬飼は知らず知らず怨念を注ぎ込んでしまった。よってその憑り代に依存して蘇った大神は、修羅の妄執に支配されていたのである。 しかし、岩戸の封印が解けた時点で大神の憑り代――『大神照という存在』は2つあった。 1つは、悪意に覆われた信仰によって作り上げられたもの。 そしてもう1つは、純粋な信仰が描いたもの。それは狛犬の心に刻み込まれていた、本来の大神の姿である。 犬飼の中にはかつての大神が、あるべき太陽の形がはっきりと残っていた。ただ、憎しみで染めた意識の底に沈んでいただけで。 穢れた憑り代を壊し思念体を取り返す事で、大神は完全復活を遂げる事が出来たのである。 帰って来た大神から事情を聞き、白雪は気が遠くなりそうだった。 まさか狛犬の能力が、憑り代そのものになり得る程のものだったとは…。 何しろ未知の能力、詳しい事は分からない。でもとにかく、思念体を氷漬けになんかしなければ全部その場で解決した問題だったのではなかろうか、実は? 「まぁ、過ぎた話だ。終わり良ければ全て良しって事」 ハッハッハ、とのったり笑う声に鬼の頭首は心の底から脱力し、がっくりと肩を落とした。 |